中小企業診断士の勉強を始めると決めてスクールへ通い始めたものの、最初に待っていたのは期待よりも圧倒的な現実でした。
学歴にもキャリアにも自信がなく、筆箱を買うところから再スタートした自分。初回講義では企業経営理論はまだしも、財務会計に入った瞬間、世界が一変しました。毎回の講義で受講生は減り続け、教室の空席が増えていくのを見るたびに「本当に自分にできるのか」と不安が募りました。
それでも、偶然出会えた仲間とのつながりが、学習を続ける大きな支えになりました。Sさんが作ってくれたメーリングリスト、土曜夜の居酒屋で語り合った勉強法、初めて模擬試験で手応えを感じた瞬間──。努力は裏切らないと知ったのも、この時期です。
この記事では、診断士スクール初日の空気、挫折しかけた財務の壁、仲間との出会いによって変わり始めた心境など、社会人受験ならではの“リアルな現場”を当時のままに描きます。
中小企業診断士スクールに通い始めた初日
文房具を揃えるところから始まった“再挑戦”
スクールに通うことを決めた日、まず向かったのは文房具売り場でした。大学時代はノートをほとんど使わず、試験前に友人のコピーを丸写しして済ませていました。ですから、社会人になって初めて「筆箱」「シャープペン」「消しゴム」を真剣に選んだのです。クリアに赤い縁取りのシンプルな筆箱に、シャープペン、よく消える消しゴム。今でもその筆箱は机の引き出しにあり、当時の決意の証のように、擦り切れながらも残っています。

パチスロに費やしていた時間を“学び”へと切り替えた
スクールの講義は毎週土曜日、午後1時から夕方5時までの4時間でした。これまでならパチスロのホールで必死にスロットを回していた時間です。電車に揺られながらテキストを膝の上で開いている自分の姿が、なんだか別人のように思えました。
年齢も経歴もバラバラな受講生たちとの出会い
多様なバックグラウンドに圧倒され、励まされた
教室に入ると、幅広い年齢や背景の人たちが机を並べていました。スーツ姿の会社員、私服の学生風、主婦らしき人までいる中で、特に印象に残ったのは白髪混じりの紳士でした。自己紹介で「東京大学卒なんですがね」と笑ったとき、場が少しどよめきました。なぜそのような肩書きを持つ人がここにいるのか。そして「自分のように何も持たない人間が混じっていていいのか」という劣等感も込み上げました。しかし同時に「経歴に関係なく挑戦している人がいる」という事実が、不思議と励みにもなりました。
一次試験対策講義の洗礼
企業経営理論は理解できても、財務会計で世界が変わった
講義はテキストに加えて毎回配布されるプリントを軸に、講師が休みなく4時間話し続けるスタイルでした。最初のうちは聞いているだけで精一杯。特に「企業経営理論」や「マーケティング論」あたりはおおむね理解できたような気もしましたが、財務会計に差しかかると空気は一変しました。全4回の講義でしたが、毎回1割ほど受講生が減っていき、最後には半分近くが姿を消していました。休み時間に空席の増えた教室を眺めながら、「やっぱり厳しい世界なんだ」と実感しました。
簿記3級で基礎固めをして“理解が一気に進んだ”
数字の流れが見えてきた瞬間、自信が芽生えた
財務会計対策として考えたのは、簿記3級のテキスト購入でした。財務会計の基礎は簿記からつながっていると気づき、思い切って一気に学び直したのです。その結果は想像以上に大きく、授業で理解できなかった部分が次々と腑に落ち、数字の流れが見えてきました。
学習仲間Sさんとの出会いが大きな転機に
メーリングリストで生まれた“受験生コミュニティ”
講師からは「小集団を作って勉強すると良い」と勧められましたが、人数が減ってしまい成立が難しい状況でした。そんなとき、一人の受講生が「じゃあ僕がリーダーやります」と手を挙げてくれました。それがSさんです。彼は行動力があり、すぐにメーリングリストを作成し、情報共有や励まし合いの場を整えてくれました。今でいうLINEグループのような存在で、それが学習のリズムを保つ大きな支えとなりました。

模擬試験で初めての“手応え”を得た経験
裏技的に点数を取れたが、それでも自信に繋がった
3月には模擬試験が実施され、思いがけず成績上位に食い込むことになりました。正直なところ、その裏には“裏技”がありました。過去の模試問題を事前に入手して解いていたため、似たような出題に対応できたのです。まっとうな実力とは言えませんでしたが、結果だけ見れば上位。周囲の受講生から「彼は有力候補だ」と目されるようになりました。
良くも悪くも、そこで立場が変わりました。これまで「パチスロばかりで何もしてこなかった自分」が、スクールの中では「デキる人」に見られるようになったのです。プレッシャーを感じる一方で、心のどこかで「自分はいけるかもしれない」と思い始めていました。
5月の模擬試験では、最初の3月模試とは違い、過去問対策が通用せず成績を落としました。「やっぱりたいしたことはない」などと思われるのは嫌でしたが、なんとか全体では上位を維持できました。模試の結果に名前が載ると、内心は不安だらけでしたが、「もしかしたらいけるかもしれない」と少しずつ自信が芽生え始めました。
勉強仲間との交流が“価値観を変えていった”
居酒屋で語り合った時間が支えになった
講義が終わった後は、スクールの仲間とよく飲みに行きました。居酒屋のテーブルで話すのは、モチベーションの保ち方、効率的な学習方法、役に立つ補助教材、さらには互いの職場の愚痴まで。普段の生活では得られない仲間とのつながりが、どれほど大きな支えになったか計り知れません。かつての自分なら、土曜の夜はパチスロの勝ち負けに一喜一憂していたはずです。それが今は「どの教材が分かりやすいか」で盛り上がっている。環境が変わると、価値観まで少しずつ変わっていくのを実感しました。

勉強は“努力が裏切らない世界”だと知った瞬間
パチスロとは違う“積み上がる安心感”
もちろん、講義は楽しいばかりではありませんでした。4時間の集中は正直きつく、眠気に襲われることもしばしば。講義中にまぶたが落ちてきて、鉛筆でノートに意味不明な線を描いてしまったこともありましたが、不思議と「もう来たくない」とは思いませんでした。むしろ、難しいながらも少しずつ知識が積み重なっていく感覚は、パチスロの刺激に似た興奮がありました。結果がすぐに出るわけではありませんが、積み上げが確実に未来につながる。そんな“手応え”が、これまでの自分にはなかった種類の快感でした。パチスロは一日で大勝もできますが、翌日のアドバンテージはほとんどありません。勉強はすぐに成果が出ないものの、少しずつ積み上がる安心感があります。
振り返れば、この時期が「受験勉強の楽しさ」を初めて知った瞬間でした。負ければ財布が空になるだけのパチスロとは違い、努力が裏切らない世界がある――そう気づいたのは、まだ小さな変化かもしれません。しかし確かにその実感が、資格取得へのモチベーションを本物に変えていったのです。
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第2回:資格雑誌との偶然の出会いが“中小企業診断士”挑戦の始まりだった
第4回:診断士一次試験の本番──立正大学で迎えた緊張と手応え、そして仲間の涙


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