中小企業診断士二次試験。その最終科目であり、最も恐ろしいと言われるのが「事例Ⅳ(財務・会計)」です。
一次試験でも多くの受験生を苦しめる科目であり、二次試験では30〜40点台が続出する“本物の鬼門”。合否の8割がここで決まるとも言われています。
試験当日、青山学院大学の教室で問題用紙を開いた瞬間から、胸の奥はずっと冷たく震えていました。
デュポンシステム、課題設定、固変分解、キャッシュフロー、NPV──どれも学習してきたはずなのに、焦りと迷いが重なり、数字の沼に沈んでいくような感覚。
80分間で何度も思考が止まり、指が動かなくなる瞬間がありました。
試験後の感触は「手応えゼロ」。
仲間も全員声を失い、「40点を超えている人、いる?」という問いに誰も答えられないほどの難化でした。
そして迎えた合格発表。
画面に自分の受験番号はなく、ストレート合格率2.7%という残酷な数字が静かに胸に突き刺さりました。
事例IV(財務・会計)──最終決戦が始まった
「財務に始まり財務に終わる」──最も恐ろしい科目
「診断士試験は財務・会計に始まり、財務・会計に終わる」。誰が言ったのかは定かではありませんが、私はこの言葉の重みを強く感じていました。実際、一次試験では財務・会計が最大の関門であり、二次試験の最後に待ち構えているのもこの科目です。一次合格後は財務に特化した勉強会にも参加し、「ここを突破できれば合格の可能性は十分ある」と自分に言い聞かせていました。試験直前には、緊張感は最高潮に達していました。
電気部品の筐体メーカーD社
試験が開始され、事例企業D社は電気部品の筐体メーカーとして登場しました。「筐体」と聞いて一瞬パチスロを連想してしまいましたが、どうやら遊技用ではないようです。不謹慎にも、その違和感が緊張を一瞬だけ紛らわせてくれました。

当時の出題と解答用紙はこちらからご覧ください。
出題 ●
解答用紙 ●
事例IVで迷走した瞬間──数字の沼にハマる
デュポン・システムで“数字の森”に迷い込む
私はまず設問と与件をざっと確認し、財務データをデュポン・システムで整理しました。
- ROA:前期0.2 → 当期-1.7
- 総資産回転率:前期0.44 → 当期4.0
- 売上高営業利益率:前期0.5 → 当期-0.4
- 流動比率:前期34 → 当期43
- 長期固定適合率:前期98 → 当期116
- 自己資本比率:前期63 → 当期62
今振り返ってみると、この時点で「利益率・回転率に課題がある」「流動比率も低水準」「一方で長期固定適合率や自己資本比率は比較的良好」と、大枠をつかむのが理想だったと思います。しかし当時の私は癖で売上高○○率を次々と計算し、数字の世界に埋没してしまいました。
課題設定で完全に迷走する
緊急度の高い指標として選んだのは売上高営業利益率と棚卸資産回転率でした。しかし、問題点として浮かび上がった「受注増による値下げ」と「在庫増加」に対して、効果的な対策をどうしても思いつけませんでした。「値上げは可能なのか?」「在庫を減らすには?」と迷走してしまったのです。
本来であれば、与件に記載されていた「豊富な内部留保」に目を向け、総資産の膨張が回転率を悪化させている点に気づくべきでした。そうすれば、機械設備の更新や特注品生産、短期借入金の返済による資産圧縮といった打ち手も検討できたはずです。
固変分解・キャッシュフロー計算──焦りが加速する
固変分解(変動費率・固定費)で判断が揺らぐ
続いて登場したのは、変動費率と固定費の固変分解を問う設問でした。製造原価報告書は与えられていましたが、「変動費に含めるのは材料費だけなのか、それとも外注加工費も含むのか…」と判断に迷いながら計算を進めました。なんとか答えは出したものの、まったく自信が持てません。初めて見るタイプの出題で戸惑いを隠せませんでした。
本来得意なキャッシュフロー計算で手が止まる
そして最終問題は5年間のキャッシュフロー計算でした。キャッシュフロー計算書は徹底的に学習していましたので自信がありましたが、与えられたデータは「経常利益・減価償却費・法人税率」のみ。簡略化されすぎていたため、逆に思考が一瞬止まり、頭が真っ白になってしまいました。

冷静に考えれば、営業キャッシュフロー=経常利益+減価償却費-税金 とシンプルに処理すればよかったのです。平成年16年は経常利益-15、減価償却費1で -14。翌年以降は経常利益5、減価償却費28で33。そこに法人税率を考慮して補正すれば十分でした。しかし、その場では整理しきれませんでした。
最後の設問では、「現状のままでは今後5年間のNPVは資本コスト5%で▲38百万円」という厳しい数字が提示されていました。本来なら改善計画のキャッシュフローと比較し、プラス評価につなげるべきところでした。しかし、その頃には思考力も集中力も限界に達しており、力を振り絞る余裕は残っていませんでした。
改善計画のキャッシュフローを正確に求めることはできませんでしたが、割引前で100百万円以上の営業キャッシュフローが見込まれていたので、▲38百万円の現状と比べれば確実に評価できる内容でした。さらに、豊富な内部留保を活用した追加投資など、発展的な提案も可能だったはずです。試験後にそうした反省を重ね、「あれだけ注意していた財務・会計でやらかしてしまった」という悔しさと共に会場を後にしました。
試験後──手応えゼロ。仲間全員が沈黙した
「40点を超えている人いる?」誰も答えられないほどの難化
帰路では、精魂尽き果てたような気分になっていました。後日、スクール仲間と情報交換をしましたが、誰ひとり手ごたえを語る人はいませんでした。「40点を超えている受験生はいないのでは?」という声すら上がるほどでした。もしそうであれば、特例措置で合格者数を調整するのではないか…と、わずかな期待を抱きながら1月後の合格発表を待つことになりました。
試験が終わり、久しぶりにパチスロに足を運びました。以前ほど夢中にはなれませんでしたが、肩の荷を下ろして遊ぶ感覚はどこか懐かしく、心を静かに慰めてくれました。
合格発表──画面に映らない自分の受験番号
合格率16.9%。ストレート合格率はわずか2.7%
そして迎えた合格発表の日。ネットで番号を確認しましたが、残念ながら不合格でした。4,281人の申込者、4,186人の受験者のうち、合格者は707人。合格率16.9%。一次試験の合格率16.2%を考えると、ストレート合格率はわずか2.7%。想像以上に狭き門でした。

仲間2名の合格。そして、悔しさの奥に芽生えた決意
驚いたのは、スクール仲間の中から2名が合格していたことです。一人は優等生タイプの40代男性。財務・会計は苦手と言っていましたが、粘り強く得点を積み上げて合格ラインに到達したのでしょう。もう一人は、当初は一次試験すら危ういと思われていた30代男性でしたが、簿記1級の学習経験があり、財務に強みを持つ実力者でした。
不合格の悔しさは大きかったものの、「ここまで取り組んできて、今さらやめられるものか!」という思いが湧き上がってきました。気持ちを切り替え、来年度こそ二次試験を突破する。その決意を新たにしました。
スクール仲間の祝勝会では、合格を果たした2名をみんなで称えました。残念ながら不合格となった仲間が大半でしたが、会場に暗い雰囲気はまったくありませんでした。「ここで諦める気はない」という表情が並び、それぞれが来年度の合格を見据えていました。
試験に挑むのは一人ひとりですが、その道の途中には仲間の支えがありました。敗北の悔しさは確かに大きいものの、この経験を糧に必ず次へつなげる。その思いを胸に、新しい一年が静かに動き始めていました。
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第6回:診断士二次試験・本番の80分×3本勝負──青山学院大学で味わった緊張と迷いの記録
第8回:第8回:二次試験2年目の戦略|事例Ⅳ強化とスクール活用で掴んだ手応え


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